宮沢賢治ぎざぎざの斑蠣岩の岨づたひ
膠質のつめたい波をながす
北上第七支流の岸を
せはしく顫へたびたびひどくはねあがり
まっしぐらに西の野原に奔けおりる
岩手軽便鉄道の
今日の終りの列車である
ことさらにまぶしさうな眼つきをして
夏らしいラヴスィンをつくらうが
うつうつとしてイリドスミンの鉱床などを考へようが
木影もすべり
種山あたり雷の微塵をかがやかし
列車はごうごう走ってゆく
おほまつよひぐさの群落や
イリスの青い火のなかを
狂気のやうに踊りながら
第三紀末の紅い巨礫層の截り割りでも
ディアラヂットの崖みちでも
一つや二つ岩が線路にこぼれてようと
積雲が灼けようと崩れようと
こちらは全線の終列車
シグナルもタブレットもあったもんでなく
とび乗りのできないやつは乗せないし
とび降りぐらゐやれないものは
もうどこまででも連れて行って
北極あたりの大避暑市でおろしたり
銀河の発電所や西のちぢれた鉛の雲の鉱山あたり
ふしぎな仕事に案内したり
谷間の風も白い火花もごっちゃごちゃ
接吻をしようと詐欺をやらうと
ごとごとぶるぶるゆれて顫へる窓の玻璃
二町五町の山ばたも
壊れかかった香魚やなも
どんどんうしろへ飛ばしてしまって
ただ一さんに野原をさしてかけおりる
本社の西行各列車は
運行あえて軌によらざれば
振動けだし常ならず
されどまたよく鬱血をもみさげ
・・・・・Prrrrr Pirr!・・・・・
心肝をもみほごすが故に
のぼせ性こり性の人に効あり
さうだやっぱりイリドスミンや白金鉱区の目論見は
鉱染よりは砂鉱の方でたてるのだった
それとももいちど阿原峠や江刺堺を洗ってみるか
いいやあっちは到底おれの根気の他だと考へようが
恋はやさし野べの花よ
一生わたくしかはりませんと
騎士の誓約強いべースで鳴りひびかうが
そいつもこいつもみんな地塊の夏の泡
いるかのやうに踊りながらはねあがりながら
もう積雲の焦げたトンネルも通り抜け
緑青を吐く松の林も
続々うしろへたたんでしまって
なほいっしんに野原をさしてかけおりる
わが親愛なる布佐機関手が運転する
岩手軽便鉄道の
最後の下り列車である
底本: 筑摩書房刊 校本 宮澤賢治全集第三巻
「春と修羅」第二集所収
BGM:ドビュッシー作曲「前奏曲集1」より 「アナカプリの丘」
演奏:ギーゼギング
by W. Gieseking
from 「Blue Sky Label」
朗読:みさきすずか
この曲をずっと探していたのですが、なかなかみつからず、とうとうパブリック・ドメインにまでたどり着きました。
サイトを管理しておられるBlue Sky Labelさま、ありがとうございました。
ジャズと書いてあるのになぜクラシック、といわれるでしょうが、この奔流のようなメロディーが、イメージとぴったりだとしかこたえられません。
ふだんは ルディエの演奏で聴いているので、ギーゼギングの演奏には圧倒されました。
曲を後から付けているので、ところどころそりのあわないところがあります。
こんどは、曲にあわせて読みたいと思います。
こんなじゃないよ、もっとべつの解釈なんだよ
というささやきもありそうです。
時間をおいて、熟成できたとき、またそれが見つかるかもしれません。
2009年度の軽便鉄道は、ひとまずここまで。
宮沢賢治の詩と童話のアーカイヴ、『春と修羅と。』に、すこしだけお化粧直しをしてまとめています。
「田園迷信」、「化物丁場」も音楽とあわせてみました。
ところどころ、抜けおちているのは、この軽便鉄道のように、録り直し組にまわったものです。
よくなってくるものもあれば、喪われる一方のものもあります。
ともあれ。
行きつく処まで 行ってみましょう。
ドビュッシー、ラベルのピアノ曲はもともと自分の好みなんだけど、実は個々の曲の区別がよくできなかったりもしますが、この曲は凄い。
オーネット・コールマンのフリー・ジャズって感じ。
えっ、ジャズみたいですか?
じゃ、許容範囲かな。
前回(2テイク目)のときも、この曲を探している最中だったんです。
静かな曲なら、めだちませんが、これはムリですね。
いつも、ひとりで読むときと、音楽とあわせるときは、仕切り直すんですが、これもそうしてみたいです。
Merry Christmas & Happy to you !