April 23, 2011, 1:06 pm
「月の光」
月の光 その一
中原中也
月の光が照つてゐた
月の光が照つてゐた
お庭の隅の草叢に
隠れてゐるのは死んだ児だ
月の光が照つてゐた
月の光が照つてゐた
おや、チルシスとアマントが
芝生の上に出て來てる
ギタアを持つては來てゐるが
おつぽり出してあるばかり
月の光が照つてゐた
月の光が照つてゐた
月の光 その二
おゝチルシスとアマントが
庭に出て來て遊んでる
ほんに今夜は春の宵
なまあつたかい靄もある
月の光に照らされて
庭のベンチの上にゐる
ギタアがそばにはあるけれど
いつかう弾き出しさうもない
芝生のむかふは森でして
とても黒々してゐます
おゝチルシスとアマントが
こそこそ話してゐる間
森の中では死んだ子が
蛍のやうに蹲んでる
詩集「在りし日の歌」所収
河出書房新社刊: 日本現代詩大系 第九巻
BGM: ラヴェル作曲 「鏡」より 第5曲「 鐘の谷」
by Marcelle Meyer
from 「Blue Sky Label」
(http://www.yung.jp/)
朗読:みさきすずか
BGMには、Blue Sky Labelさまの収録曲をお借りいたしました。
ありがとうございました。
これで、4/5収録分のすべての編集を終えました、
「北の海」から始めた連禱シリーズは、いったん区切りとします。
あの日から、たくさんの人びとがテレビの向うのかなしみやいたみに思いを馳せました。
かなしみのコートを一枚ずつぬぎすてさせる陽の力があればいいのですが、残念ながらわたしはそのキャラではありません。
けれど、巨大な喪失を記憶するシナプスにはなれる。
無念さをうけとめる共振にならなれる。
中也もまた とりかえしのつかない喪失と
全力で 闘ったのですね。
連禱5
April 19, 2011, 11:43 pm
「また來ん春」
また來ん春
中原中也
また來ん春と人は云ふ
しかし私は辛いのだ
春が来たつて何になろ
あの子が返つて來るぢやない
おもへば今年の五月には
おまへを抱いて動物園
象を見せても猫(にゃあ)といひ
鳥を見せても猫(にゃあ)だつた
最後にみせた鹿だけは
角によつぽど惹かれてか
何とも云はず 眺めてた
ほんにおまへもあの時は
此の世の光のたゞ中に
立つて眺めてゐたつけが…
詩集「在りし日の歌」所収
河出書房新社刊: 日本現代詩大系 第九巻
朗読:みさきすずか
連禱5
April 16, 2011, 7:15 pm
「月夜の濱邉」
月夜の濱邉
中原中也
月夜の晩に、ボタンが一つ
波打際に、落ちてゐた。
それを拾つて、役立てようと
僕は思つたわけでもないが、
なぜだかそれを捨てるに忍びず
僕はそれを、袂に入れた。
月夜の晩に、ボタンが一つ
波打際に、落ちてゐた。
それを拾つて、役立てようと
僕は思つたわけでもないが
月に向つてそれは抛れず
浪に向つてそれは抛れず
僕はそれを、袂に入れた。
月夜の晩に、拾つたボタンは
指先に沁み 心に沁みた。
月夜の晩に、拾つたボタンは
とうしてそれが、捨てられようか?
詩集「在りし日の歌」所収
河出書房新社刊: 日本現代詩大系 第九巻
朗読:みさきすずか
連禱4
April 8, 2011, 11:29 am
「湖上」
湖上
中原中也
ポツカリ月が出ましたら、
舟を浮べて出掛けませう。
波はヒタヒタ打つでせう、
風も少しはあるでせう。
沖に出たらば暗いでせう、
櫂から滴垂る水の音は
昵懇しいものに聞こえませう、
――あなたの言葉の杜切れ間を。
月は聴き耳立てるでせう、
すこしは降りても來るでせう、
われら接唇する時に
月は頭上にあるでせう。
あなたはなほも、語るでせう、
よしないことや拗言や、
洩らさず私は聴くでせう、
――けれど漕ぐ手はやめないで。
ポツカリ月が出ましたら、
舟を浮べて出掛けませう、
波はヒタヒタ打つでせう、
風も少しはあるでせう。
詩集「在りし日の歌」所収
河出書房新社刊: 日本現代詩大系 第九巻
BGM: 「遠い森の中に」(作曲者不詳)
(C)MP3 by SayaTomoko

朗読:みさきすずか
BGMに、M-BoxさまのMP3をお借りいたしました。
すてきな曲をありがとうございました。
連禱2
April 6, 2011, 8:35 pm
「北の海」
北の海
中原中也
海にゐるのは、
あれは人魚ではないのです。
海にゐるのは、
あれは、浪ばかり。
曇つた北海の空の下、
浪はところどころ歯をむいて、
空を呪つてゐるのです。
いつはてるとも知れない呪。
海にゐるのは、
あれは人魚ではないのです。
海にゐるのは、
あれは、浪ばかり。
詩集「在りし日の歌」所収
河出書房新社刊: 日本現代詩大系 第九巻
朗読:みさきすずか
あの日からまもなく一ヶ月がたとうとしています。
いまだ全貌の見えない被害。
被災された方のことを思うと言葉もありません。
また いまこのときも苛酷な状況で力を振り絞っていらっしゃる方々に頭が下がります。
遠い国々からの援助も。
すこしだけ
うたを 手向けさせてください。
連禱1