ケロログ
January 22, 2012, 3:01 pm
夏目漱石作「夢十夜」より第十夜
夏目漱石 「夢十夜」 庄太郎が女に攫(さら)われてから七日目の晩にふらりと帰って来て、急に熱が出てどっと、床に就(つ)いていると云って健(けん)さんが知らせに来た。
 庄太郎は町内一の好男子(こうだんし)で、至極(しごく)善良な正直者である。ただ一つの道楽がある。パナマの帽子を被(かぶ)って、夕方になると水菓子屋(みずがしや)の店先へ腰をかけて、往来(おうらい)の女の顔を眺めている。そうしてしきりに感心している。そのほかにはこれと云うほどの特色もない。  
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Posted by たりたくみ at January 22, 2012, 3:01 pmComments(0)TrackBack(0)
January 20, 2012, 9:20 pm
夏目漱石「夢十夜」 第九夜
夏目漱石 「夢十夜」  世の中が何となくざわつき始めた。今にも戦争(いくさ)が起りそうに見える。焼け出された裸馬(はだかうま)が、夜昼となく、屋敷の周囲(まわり)を暴(あ)れ廻(まわ)ると、それを夜昼となく足軽共(あしがるども)が犇(ひしめ)きながら追(おっ)かけているような心持がする。それでいて家のうちは森(しん)として静かである。
 家には若い母と三つになる子供がいる。父はどこかへ行った。父がどこかへ行ったのは、月の出ていない夜中であった  
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Posted by たりたくみ at January 20, 2012, 9:20 pmComments(0)TrackBack(0)
January 20, 2012, 4:19 pm
夏目漱石作「夢十夜」より第八夜


床屋の敷居を跨(また)いだら、白い着物を着てかたまっていた三四人が、一度にいらっしゃいと云った。<  真中に立って見廻すと、四角な部屋である。窓が二方に開(あ)いて、残る二方に鏡が懸(かか)っている。鏡の数を勘定(かんじょう)したら六つあった。
 自分はその一つの前へ来て腰をおろした。すると御尻(おしり)がぶくりと云った。よほど坐り心地(ごこち)が好くできた椅子である。鏡には自分の顔が立派に映った。顔の後(うしろ)には窓が見えた。それから帳場格子(ちょうばごうし)が斜(はす)に見えた。格子の中には人がいなかった。  
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January 19, 2012, 8:51 pm
夏目漱石作「夢十夜」より第七夜
夏目漱石 「夢十夜」 夏目漱石作「夢十夜」より第七夜

 何でも大きな船に乗っている。
 この船が毎日毎夜すこしの絶間(たえま)なく黒い煙(けぶり)を吐いて浪(なみ)を切って進んで行く。凄(すさま)じい音である。けれどもどこへ行くんだか分らない。ただ波の底から焼火箸(やけひばし)のような太陽が出る。それが高い帆柱の真上まで来てしばらく挂(かか)っているかと思うと、いつの間にか大きな船を追い越して、先へ行ってしまう。そうして、しまいには焼火箸(やけひばし)のようにじゅっといってまた波の底に沈んで行く。そのたんびに蒼(あお)い波が遠くの向うで、蘇枋(すおう)の色に沸(わ)き返る。すると船は凄(すさま)じい音を立ててその跡(あと)を追(おっ)かけて行く。けれども決して追つかない。  
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January 18, 2012, 9:22 pm
夏目漱石作 「夢十夜」より 第六夜
夏目漱石 「夢十夜」 運慶(うんけい)が護国寺(ごこくじ)の山門で仁王(におう)を刻んでいると云う評判だから、散歩ながら行って見ると、自分より先にもう大勢集まって、しきりに下馬評(げばひょう)をやっていた。  山門の前五六間の所には、大きな赤松があって、その幹が斜(なな)めに山門の甍(いらか)を隠して、遠い青空まで伸(の)びている。松の緑と朱塗(しゅぬり)の門が互いに照(うつ)り合ってみごとに見える。その上松の位地が好い。門の左の端を眼障(めざわり)にならないように、斜(はす)に切って行って、上になるほど幅を広く屋根まで突出(つきだ)しているのが何となく古風である。鎌倉時代とも思われる。   
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January 15, 2012, 11:19 pm
夏目漱石作 「夢十夜」より 第五夜
夏目漱石 「夢十夜」  こんな夢を見た。  何でもよほど古い事で、神代(かみよ)に近い昔と思われるが、自分が軍(いくさ)をして運悪く敗北(まけ)たために、生擒(いけどり)になって、敵の大将の前に引き据(す)えられた。  その頃の人はみんな背が高かった。そうして、みんな長い髯を生(は)やしていた。革の帯を締(し)めて、それへ棒のような剣(つるぎ)を釣るしていた。弓は藤蔓(ふじづる)の太いのをそのまま用いたように見えた。漆(うるし)も塗ってなければ磨(みが)きもかけてない。極(きわ)めて素樸(そぼく)なものであった。   
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January 14, 2012, 3:50 pm
夏目漱石作 「夢十夜」より 第四夜
夏目漱石作 「夢十夜」より 第四夜

広い土間の真中に涼み台のようなものを据(す)えて、その周囲(まわり)に小さい床几(しょうぎ)が並べてある。台は黒光りに光っている。片隅(かたすみ)には四角な膳(ぜん)を前に置いて爺(じい)さんが一人で酒を飲んでいる。肴(さかな)は煮しめらしい。  爺さんは酒の加減でなかなか赤くなっている。その上顔中つやつやして皺(しわ)と云うほどのものはどこにも見当らない。ただ白い髯(ひげ)をありたけ生(は)やしているから年寄(としより)と云う事だけはわかる。自分は子供ながら、この爺さんの年はいくつなんだろうと思った。   
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January 12, 2012, 8:41 pm
夏目漱石 作 「夢十夜」より 第三夜




こんな夢を見た。  六つになる子供を負(おぶ)ってる。たしかに自分の子である。ただ不思議な事にはいつの間にか眼が潰(つぶ)れて、青坊主(あおぼうず)になっている。自分が御前の眼はいつ潰れたのかいと聞くと、なに昔からさと答えた。声は子供の声に相違ないが、言葉つきはまるで大人(おとな)である。しかも対等(たいとう)だ。   
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January 12, 2012, 8:40 pm
夏目漱石 作 「夢十夜」より 第二夜

こんな夢を見た。  和尚(おしょう)の室を退(さ)がって、廊下(ろうか)伝(づた)いに自分の部屋へ帰ると行灯(あんどう)がぼんやり点(とも)っている。片膝(かたひざ)を座蒲団(ざぶとん)の上に突いて、灯心を掻(か)き立てたとき、花のような丁子(ちょうじ)がぱたりと朱塗の台に落ちた。同時に部屋がぱっと明かるくなった。      
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January 10, 2012, 9:44 pm
夏目漱石 作 「夢十夜」より 第一夜
夏目漱石 作 「夢十夜」より 第一夜を再度、朗読しました。
これから第二夜から十夜まで、
順次、読んで行きたいと思います。

第一夜

 こんな夢を見た。  腕組をして枕元に坐(すわ)っていると、仰向(あおむき)に寝た女が、静かな声でもう死にますと云う。女は長い髪を枕に敷いて、輪郭(りんかく)の柔(やわ)らかな瓜実(うりざね)顔(がお)をその中に横たえている。真白な頬の底に温かい血の色がほどよく差して、唇(くちびる)の色は無論赤い。とうてい死にそうには見えない。しかし女は静かな声で、もう死にますと判然(はっきり)云った。

http://db1.voiceblog.jp/data/taritakumi/1326191262.mp3  
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Posted by たりたくみ at January 10, 2012, 9:44 pmComments(0)TrackBack(0)