ケロログ
January 27, 2012, 3:14 am
「風立ちぬ(春-1)」堀 辰雄
風立ちぬ
春-1
作:堀 辰雄
朗読:日高徹郎
14分41秒
岩波文庫(緑帯)

 三月になった。或る午後、私がいつものようにぶらっと散歩のついでにちょっと立寄ったとでも云った風に節子の家を訪れると、門をはいったすぐ横の植込みの中に、労働者のかぶるような大きな麦稈帽をかぶった父が、片手に鋏をもちながら、そこいらの木の手入れをしていた。私はそういう姿を認めると、まるで子供のように木の枝を掻き分けながら、その傍に近づいていって、二言三言挨拶の言葉を交わしたのち、そのまま父のすることを物珍らしそうに見ていた。――そうやって植込みの中にすっぽりと身を入れていると、あちらこちらの小さな枝の上にときどき何かしら白いものが光ったりした。それはみんな莟らしかった。……  
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January 19, 2012, 6:48 am
「風立ちぬ(序曲)」堀 辰雄
風立ちぬ
序曲
作:堀 辰雄
朗読:日高徹郎
13分32秒
岩波文庫(緑帯)

序曲

それらの夏の日々、一面に薄の生い茂った草原の中で、お前が立ったまま熱心に絵を描いていると、私はいつもその傍らの一本の白樺の木蔭に身を横たえていたものだった。そうして夕方になって、お前が仕事をすませて私のそばに来ると、それからしばらく私達は肩に手をかけ合ったまま、遥か彼方の、縁だけ茜色を帯びた入道雲のむくむくした塊りに覆われている地平線の方を眺めやっていたものだった。ようやく暮れようとしかけているその地平線から、反対に何物かが生れて来つつあるかのように……  
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